めっちゃカメレオンはなぜ2000万本も売れたのか。26本ぶんのコメント欄を訳した僕の答え
Why Meccha Chameleon Sold 20 Million Copies. I Translated a Month of Your Comment Sections Looking for the Answer
“かくれんぼゲームでチートするのって、今まで見た中で一番の『外で日光浴びてこい』案件だと思う”
めっちゃカメレオンが発売2か月で2000万本売れた。790円のかくれんぼゲームを2人組がおよそ2か月で作って、広告を打たずに、だ。理由を解説した記事はもうたくさん出ているし、ゲームデザインの話としてはどれも正しいと思う。ただ僕は7月4日から、このゲームの海外の反応を26本ぶん記事にしてきた。毎晩コメント欄を数千件読んで訳している側から見ると、このゲームを売ったのは開発者でも配信者でもなくて、コメント欄なんじゃないかと思えてきている。
広告を1円も出さずに2000万本、って字面がもう変
まず事実の骨格だけ置いておく。めっちゃカメレオンは6月10日にSteamで出た、790円のマルチプレイ対戦ゲームだ。隠れる側は真っ白な体に自分で色を塗って周囲の物に化け、鬼は制限時間内にそれを見つけて撃つ。作ったのはレモリオンとはがねいろの2人で、開発期間はおよそ2か月。通信まわりはエピックが無料で配っている仕組みに乗せていて、サーバー代も広告費もかけていない。それが6月26日に1000万本、そして8月12日に2000万本に届いた。同時接続のピークは34万人を超えている。
白状すると、僕は最初これを一発ネタだと思っていた。7月4日に3本まとめて記事にして、来週にはもう別の何かに移ってるだろうな、くらいの気持ちで。そこから8月8日まで、ネタが一度も尽きなかった。26本。ひとつの作品でここまで続いたのは、うちのサイトでは他にない。数字の並びより、その事実のほうが体感としてはよっぽど怖い。
同じクリップが、2本ない
手塗りという仕組みが効いてるんだと思う。隠れ場所はステージ側が用意した物じゃなくて、プレイヤーがその場で作った物になる。スポイトで壁の色を吸って、丸くなるか横たわるかを選んで、ポーズを決める。つまり擬態の出来はプレイヤーの数だけ違う。ここが切り抜き動画の寿命を決めてる。プロップハントの物陰は誰が隠れても同じ形だけど、こっちは毎回、下手も上手も含めて新品の絵が出てくる。
うちの26本を並べると分かりやすい。1時間かけて超写実の絵を描き上げた回、ランプに化けていないいないばあを始める回、ぽっちゃり体型で鬼ごと視界を埋める回、Garten of BanBan風の不気味なやつに化ける回、呪術廻戦のパロで生え際をいじられる回。全部同じゲームの話なのに、動画としては完全に別物になってる。
“隠れ方の選択肢は2つ 1. ガチで隠れる 2. ネタに走る”
この二択があるから、投稿者が上手い人に限られない。ネタに走った側の画も同じだけ流通する。訳していて楽しいのも、正直こっちだ。完璧に壁と同化した人より、どう見てもバレてるのに堂々と立ってる人のほうが記事にしたくなる。
いちばん伸びたコメントが、ゲームの話じゃない
26本ぶんで訳したコメントは605件になった。いいね順に並べ直したとき、正直ちょっと笑った。トップは7万7千いいねで、内容はチーターへの悪口。次が6万1千で、鬼のほうが先に諦めてる、という一言。3番目が4万6千で、細部を描き込んでる最中に視界の端からショットガンの銃身が入ってくる瞬間の話だ。バランス調整がどうとか、マップの出来がどうとか、そういう真面目な感想は上位にほとんど残らない。
これはつまり、クリップが完成品として流れていないということだと思う。オチの空欄が付いたまま流れてる。プレイの側は状況を作るところまでしかやらなくて、笑いどころを言葉にするのはコメント欄の仕事で、いちばんうまく言えた人のところに数万いいねが乗る。7月4日の初動で、鬼をかわし続けるプレイにマイケル・ジャクソンの曲名を持ち出した人がいた。あの回はうちでもスムーズ・クリミナル回と呼んでいて、記事のタイトルにまでなってる。名前を付けたのはプレイヤーじゃない。見てた側だ。
負けた側の画が、いちばん面白い
“ズームインして細部を描き込んでる時に、視界の端からショットガンの銃身がぬっと入ってくる瞬間より面白いものはない”
対戦ゲームで負けた人は、普通つまらない。試合から外れて、次を待つ。ところがこのゲームは負ける瞬間がいちばん良い画になる。しかも見つかったあとも探す側に回れるし、口笛で鬼を煽れるし、勝敗とは別枠でポイントが貯まる。要するに負けても暇にならないし、恨みも残らない。
この設計が効いてくるのは供給の量だと思う。1試合終わったとき、投稿に値する素材は勝者のぶんだけじゃない。バレ方が間抜けだった人、化けた場所がひどかった人、あと一歩で見逃されるところだった人。全員が持ち帰る。つまり1試合から出てくるクリップの本数が、普通の対戦ゲームより単純に多い。訳していても同じ感覚があって、上手い擬態の回より、事故った回のほうが手が止まらない。
チートに7万いいねの怒りが飛ぶ、という妙な健全さ
7月23日、ある配信者がAIじみたチートを使ってるんじゃないかと告発された回で、コメント欄が完全にお祭りになった。冒頭に掲げた7万7千いいねの一言もこの回だ。面白かったのは怒り方で、ズルいという抗議より、なぜこのゲームでそれをやるのか本気で分からない、という戸惑いのほうが強く出ていた。
“このゲームでなぜチートするのか本気で理解できない笑、得るものが何も無いのに”
得るものが無い、という言い方は、このゲームが何であるかを全員が同じように理解してるってことだと思う。勝ち負けを取りに来る場所だと思ってる人は、そもそもこの怒り方をしない。ついでに7月29日には、カスタムマップの一部にマルウェアが仕込まれてるらしいという注意喚起が1万5千いいねを集めていた。誰に頼まれたわけでもないのに、コメント欄が自分たちで見張りを始めてる。
ここが僕のいちばん言いたいところで、1000万本が6月26日、2000万本が8月12日だ。前半の1000万本はバズで説明がつく。問題は後半で、あれは最初の熱が引いたあとに積み上がってる。そのあいだコメント欄がやってたのは、新しいネタを作ることと、荒らしを追い出すことだった。流行が住所に変わる瞬間って、たぶんこういうのを指すんだと思う。
790円の内訳
だから僕は、売れた理由を安さと運で片付けたくない。790円で買えるのは遊びそのものだけじゃなくて、あの空欄を埋めに行く権利のほうだと思う。誰かのクリップに一言乗せて、それが笑いを取れたら、今度は自分が状況を作る側に回りたくなる。広告を打たずに2000万本まで行った正体は、たぶんこの往復だ。ゲームがコンテンツを生むんじゃなくて、コンテンツが客を連れてきて、その客がまたコンテンツを作る。
白状すると、僕がやってることも構造は同じだ。他人のコメントを訳して並べてるだけなのに、1か月半続いてしまった。オチを書いてるのは僕じゃない。26本ぶん訳して、いちばん強い一言はいつも知らない誰かの手元から出てきた。8月の頭には深海のマップが増えたらしいので、たぶん今夜も誰かがとんでもない場所に化けて、誰かがそれに完璧な一言を付ける。それを翌朝に見つけるのが、いま僕のいちばん楽しい時間になってる。
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