コラムアニメ
ジブリ風AI画の海外の反応。鈴木敏夫Pが取材を全部断っていた理由と、宮崎駿の生命に対する冒涜がいまも誤解されている話
Ghibli's Producer Waited Out the Ghibli-Style AI Trend. What Slop Sounds Like in Japanese.
r/anime(朝日新聞の鈴木敏夫インタビューをAUTOMATON WESTが英訳した記事のスレッド)海外の反応まとめ編集部
一番しんどいのは、あれだけはっきりした個性を持ったスタジオの絵柄が、何度も何度も同じありきたりのフィルターに均されていったことだ
ジブリのプロデューサーの鈴木敏夫さんが、ジブリ風AI画像が出回っていたころの取材依頼をぜんぶ断っていた。どうせ飽きるから、というのがその理由で、朝日新聞のインタビューでそう話している。この記事が英語になってr/animeに貼られた日、僕は荒れるほうに賭けていた。開いたら、上から下までほぼ全員が同意していた。毎晩コメント欄を訳している側として、この全面同意のほうに驚いた。ここでは、その日のスレで実際に何が言われていたか、英語圏のファンがAI製のものを指して使うslopという言葉、そして宮崎駿さんの生命に対する冒涜がいまも誤解されたまま出回っている件を、順番に書いていく。
何も言わずに待った人が、いちばん強かった
鈴木敏夫さんが朝日新聞のインタビューで、ジブリ風のAI画像が出回っていたころの取材依頼をぜんぶ断っていたと話している。理由は身も蓋もなくて、どうせみんな飽きるから。実際そのとおりになった。AIでああいう絵は簡単に作れるけれど、少し知識のある人ならすぐ見抜けるし、大して意味も面白みもない。それが鈴木さんの見立てだった。
この話をAUTOMATON WESTが英語にして、r/animeに貼られた。AIの話題は英語圏のアニメ板でよく燃える火種なので、僕はスレを開く前から荒れているほうに賭けていた。開いたら、唯一の勝ち手は指さないことだ、という一言に賛同がぶら下がっていて、これはストライサンド効果だという指摘が続き、宮崎さんの昔の発言のときからジブリはこの手の熱に乗ってこなかった、放置は正解だった、と落ち着いていく。反論らしい反論はほとんど無かった。
毎晩どこかのコメント欄を訳していると、公式が何か言うたびに火が大きくなる光景ばかり見ることになる。訂正しても燃える。謝っても燃える。だから、何も言わないという選択がここまできれいに支持されているのを見て、素直に感心してしまった。黙るのは逃げではなくて、たぶんいちばん体力の要る手だ。
少し知識があれば見抜ける、をスレが実演していた
面白いのはこの先で、コメント欄が鈴木さんの言葉を勝手に実演しはじめる。AI絵はしばらく見ていると繰り返しに気づく、同じような顔、同じような光、同じような構図、だから見慣れるほど判別は簡単になる。そういう書き込みにうんうんと人が集まって、そこから見分け方の品評会になっていった。
なかでも僕がいちばん笑ったのは、そもそもジブリに似てすらいない、という角度からの一撃だった。
正直、これまで見たジブリ風AIとかいうやつは、どれもたいしてジブリに似てない。プロンプトすらろくに達成できてないのに、騙されるほど説得力のある絵になるわけがない。だいたいは、十年前に魔女の宅急便を一回観ただけのアメリカ人が、自分ならあの絵柄を再現できると信じ込んで描いたみたいな絵だ
技術寄りの説明もあった。AIはお手本を平均する装置だから、黒から白まで幅のあるジブリを丸ごと混ぜると灰色が出てくる。要素はあるのに、どの作品の癖でもない。あのぬるさの正体を、これ以上うまく言える気がしない。ほかにも、あのブームの絵はだんだん全部が黄ばんでいったとか、ジブリよりキング・オブ・ザ・ヒルに似ていたとか、観察は妙に具体的だった。
訳しながら思ったのは、あのスレの人たちが守っていたのはジブリというより、自分が見分けのつく人間であるという自覚のほうだったということ。消費者にそんな知識があると思っているのが大胆だな、と皮肉を書いている人もいた。見抜ける側でいたい。その意地みたいなものが、スレ全体の温度を作っていた。
slopという言葉を、訳す側から説明しておく
このスレを読むには、slopという単語が要る。もとは家畜に流し込む餌や残飯のことで、英語圏のコメント欄では、中身が薄いまま大量に出てくるものへの悪口として使われる。日本語にぴったり重なる一語が無いので、僕は粗製濫造とか量産型とか、強い場面では残飯寄りのニュアンスで訳し分けている。カタカナでスロップと置くこともあるけれど、それだと悪口の匂いがだいぶ薄まる。
使われ方は大きく二つある。ひとつは異世界スロップみたいに、似た作品が毎期あふれることへの悪態で、うちが訳したコメントにも、リゼロは大半の異世界スロップと違って自分が異世界モノであることを忘れない、という褒め方や、毎期どれだけ量産型が出ようが全部見てやる、俺こそがターゲット層だ、という開き直りがある。もうひとつが、AI製のものを指すAIスロップだ。同じ単語でも、前者は作品への悪態で、後者は作り方そのものへの悪態になる。訳すときにここを取り違えると、意味が丸ごとずれる。
二つ目の使われ方で、いま何が起きているかを一番よく表しているのがこのコメントだと思う。人気ゲームに量産動画が湧いたことを嘆いていた人が、あとから自分で追記していた。
brainrot がめっちゃカメレオンにまで来るとかありえん✌️ 追記: いや、AI製のよりはマシだってのは認めるわ
悪口の基準線が一段下がったのが分かる。少し前まで最低ラインだった量産動画が、AI製という新しい底ができたおかげで、マシなほうに繰り上がってしまった。訳しながら、これは笑うところなんだろうかと毎回迷う。人間が作った雑なものが、急に手仕事の側として褒められはじめる。この繰り上がりを、僕はもう何度か訳している。
生命に対する冒涜は、AIに向けた言葉じゃない
このスレにはもうひとつ、この話題のたびに必ず出てくる訂正がある。宮崎駿さんの、生命に対する冒涜という有名な一言についてだ。
そもそもあの発言はAIと結びついてすらいない。何年も前からずっと聞かされてるやつだ。当時出回ってた3Dアニメがらみの話で、それをみんなが誤って引用してるだけ
スレの共通見解はこうだ。あれは生成AIの画像に向けられた言葉ではなく、何年も前に見せられた実験的な3Dのデモへの反応として出たものだった。このスレだけでも、同じ訂正が何本も並んでいた。わざわざ何人もが書きにくるということは、それだけ誤用のほうが広く出回っているということでもある。しかも鈴木さんは同じインタビューで、宮崎監督はそもそも生成AIを知らない、とも話している。いま出回っている宮崎駿がAIに激怒したという物語は、言葉の宛先も、本人の現在地も、二重にずれている。
日本で出た言葉が英語に訳されて一人歩きして、それが逆輸入されて日本語のタイムラインに戻ってくる。うちは両方向を訳しているサイトなので、この循環を毎日見ている。自分が置いた訳の一行が、数年後に誰かの誤解として戻ってくることがあるという事実は、地味にこわい。だから僕は、誰の言葉かと、いつの話かを、できるだけ落とさないようにしている。
飽きるまで待つ、という戦い方
スレの終わりのほうに、ゲド戦記を初めて観たら絵柄にAIの見覚えがあった、という書き込みがあった。残念だったけど、あのブームはもう下火みたいだね、と続けてある。本物のほうが偽物に似て見える瞬間がちゃんとあって、それでも書いた本人は、去ったと判定している。この一行が、鈴木さんの読みの答え合わせになっていた。
待つのは戦略として地味だし、待っているあいだは負けているように見える。それでもコメント欄は飽きる。僕はそれを毎晩見ている。熱が引いたあとに残るのは、誰がどの絵を描いたか思い出せるほうの作品だ。今夜もどこかのスレで、これは本物だと分かる人たちが、勝手に見分け方を教え合っている。あの光景が続くかぎり、見抜ける側はたぶん減らない。
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