英語圏アニメスラング辞典。peakもGOATもcookedも、毎晩訳してる側から手の内ごと解説する
What "Peak" Means in Anime — Plus GOAT, Mid, Cooked and Sakuga
“なあ、原作未読の奴らは、今シーズンがどれだけヤバいか分かってないんだよ”
海外のコメント欄には、辞書に載ってない言葉があふれてる。peak、cooked、mid。僕は毎晩これを日本語にする仕事をしてるので、頭の中にだけ存在する変な辞典がある。今日はそれを開いて見せます。意味だけじゃなくて、どう訳してるか、どこで悩んでるかまで。この小さな辞典があると、まとめ記事の訳文の裏にある原語の熱が透けて見えるようになるはずなので。
直訳した瞬間に死ぬ言葉たち
冒頭に掲げたのは、いいね2万超えの怪物コメントだ。原文にはpeakという単語が入っていて、僕はこれをヤバいと訳した。この回は頂点だった、なんて訳した日には、原文の勢いも軽さも全部死ぬ。スラングは単語の意味だけじゃなくて、誇張、皮肉、お約束といった使われ方の文脈ごと運ばないと成立しない。毎晩この綱引きをやってる側として、特によく出会う言葉を、意味のグループごとに並べていく。
褒め言葉編。peakは頂点じゃなくて祭りの掛け声
peakは直訳すれば頂点だけど、コメント欄では最高傑作、アニメの到達点という最大級の賛辞として使われる。peak fictionまで行くと、これ以上の物語は存在しないという宣言だ。放送直後の沸いてるコメント欄では、多少の誇張を含んだ祭りの掛け声みたいに飛び交うので、僕は文脈に応じて神回や最高峰と訳し分けてる。そしてpeakには対義語がいて、それがslop。餌とか残飯みたいなニュアンスの、手抜きコンテンツへの蔑称だ。この二語が一つのコメントに同居した最高の実例がある。
“ここまでが神脚本、ここから駄文の始まりや。”
GOATはGreatest Of All Timeの頭文字で、史上最高。作品にも人にも使われて、ヤギと綴りが同じだからヤギの絵文字だけが賛辞として並ぶこともある。動詞化したgoatedという形も頻出で、たとえばストリートファイター実写映画の予告に付いたこのコメント。
“車をボコボコにする(ボーナスステージ)を入れてくるの、ガチで最高の判断”
goatedをガチで最高と訳すこの感じ、伝わるだろうか。そして褒め言葉編で一番面白いのがsakugaだ。これは日本語の作画がそのまま英語圏に輸入された逆輸入語で、単に作画一般じゃなくて、特に力の入った、動きの良い作画シーンを褒める文脈で使われる。日本語が海を渡ってスラングになって、意味を少し変えて定着した。この辞典の中で僕が一番好きな項目でもある。
絶望編。cookedは調理されてない
次は嘆きの言葉たち。cookedは直訳すると調理されたけど、スラングではもう終わりだ、詰んだの意味になる。キャラが絶体絶命になった瞬間の定番で、日本語ならあいつはもうダメだの温度感。シリアスな場面だけじゃなく、テスト前に追い込まれたキャラや修羅場のラブコメにも冗談めかして使われるから、訳すときは深刻さの度合いを毎回見極める必要がある。作画がひどいと話題になったブルーロックの新PVでは、こう使われてた。
“0:48 いやマジかよ、PNGを偽のカメラワークで動かしてるだけじゃん。今期は終わったわ”
COOKEDDと最後のDを重ねて絶望を強調するあたりも含めて、生きたスラングだ。copiumはcope(つらい現実をやり過ごす)とopium(アヘン)を合わせた造語で、現実を直視したくないファンが吸う架空の鎮痛剤。推しの敗北や不穏な展開のあとに、copiumを吸いながら次回を待つ、みたいに使う。そして定番の対句がit's over(もう終わりだ)とwe're so back(完全復活だ)。展開に一喜一憂するファンの感情のジェットコースターを表す言い回しで、同じ人が一話ごとに両方書き込んでるのも珍しくない。毎晩見てると、人間の感情の忙しさに愛おしくなってくる。
論争編。midの一言は放火
midはmiddle由来で、並、凡作の意味。ただの普通じゃなくて、期待されてたのにその程度か、という失望や挑発が乗ることが多い。盛り上がってるコメント欄にmidと一言だけ投稿して論争の火種になる光景は、本当に毎週どこかで見る。あれはもう感想じゃなくて放火だ。訳すときは凡作と期待外れの間で、刺の強さに合わせて選んでる。
glazingは本来は艶出しの意味で、スラングでは過剰に持ち上げること、信者的な絶賛を指す。さすがに褒めすぎではというツッコミとして使われることが多くて、賛辞そのものじゃなく賛辞への批評だという点が訳し分けのキモになる。WとLはwinとlossの頭文字で、W episodeは勝ちの回つまり神回、L takeは負けの意見つまり的外れな意見。あらゆる物事を勝敗で語る文化だ。ratioは、元の投稿への反論のほうが多くのいいねを集めてしまう現象のことで、論破されたに近い。議論に負けただけじゃなく、観客まで失った状態を一語で表せる、恐ろしく効率のいい言葉だと思う。
愛着編。waifuは日本語の里帰り、basedは訳者泣かせ
waifuは、日本語風に発音されたwifeがそのまま英語圏で定着した言葉で、自分にとって特別な最愛の女性キャラを指す。ただの好きなキャラより一段重い、半ば冗談で半ば本気の愛情表現だ。男性キャラ版はhusbando。日本語が英語になって、また日本のファンに知られていくこの往復は、sakugaと並ぶ里帰り組と言っていい。そしてbased。これは他人の目を気にせず自分の信念を貫いてて格好いい、という賛辞で、物おじしない発言やキャラの姿勢に飛んでくる。日本語に一語で対応する言葉が存在しない、僕にとって最凶の訳者泣かせだ。よく言った、ブレない、あたりを場面ごとに使い分けてるけど、正直どれも原語の格好よさには届いてない。いい訳を思いついた人は、お問い合わせから教えてほしい。本気で。
訳文の裏で、毎晩この言葉たちと格闘してる
スラングは生き物で、意味も温度も流行とともに変わる。だから僕は単語を機械的に置き換えるんじゃなくて、そのコメントが日本語のコメント欄に書かれたとしたらどんな言葉になるかを基準に訳文を作ってる。当サイトのまとめには、ここで紹介した語が毎日のように登場する。訳文の裏には、peakを神回にするかヤバいにするかで唸ってる人間がいるわけだ。この小さな辞典を片手にまとめを読み返してもらえたら、海外ファンの声がもう一段生き生きと聞こえてくると思う。そして僕は今夜も、basedの完璧な訳語を探してる。
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